禁断の蝉

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 もう20年くらい前になると思うのですが、とある好きな作家が新聞か雑誌のコラムで、
「肉食のペットを飼っていて、それは生きているエサしか食べない。生きているエサを買ってきて与えると、そのエサが逃げまくったあげく食べられるので、それをワクワクしながら見ている」の旨で書いてありました。

 それを読んだ私は、「人間が自分の趣味のために生命を売買するとは何事だ」と一人憤慨し、その人の記事を読まなくなりました。


 元から私は「虫もころさず」という感じで、蚊が血を吸いに来たらそれは蚊がリスクを冒してそうしているのだから見つけたらパチンと叩きますが、ハエが飛んでいても始末しないです。
 でもそれより前の子どもの頃は、生きているイトミミズを買ってきて金魚にエサとして与えていたのを思い出します。私の中ではイトミミズは多分良かったのでしょう。
 そのコラムの後、自分のペットを通じて生命のやり取りに介入する事が無い生活をしていました。


 うちの猫は外には出さないので動くものには興味が有っても、家の中のハエやクモ、大物でもゴキちゃん位としか遊べません。
 猫が自分で捕まえた虫は、それは虫自らが猫がいる家の中に入って来たので、私は取り上げる事はしません。虫が逃げられるかどうかは、自然の法則なのだと思っています。


 今年 2014 年の夏ですが、暑い夜に蝉が羽化したようで、バタバタと網戸にたかって騒々しく鳴いていました。室内が明るいからどうしても寄って来てしまう様です。

 それを見たうちの猫が網戸にガシガシとたかっています。網戸が壊れそうです。

 私の決め事なんぞは当然うちのネコは知らず、
 「これ欲しい。ちょうだい」
と、訴えかけてきます。

 「嗚呼どうしよう。蝉を捕って与えたい、でもそれをすると私が自然の摂理に介入することになる」

 すごく悩んだ割にはその悩みはすぐに消え、蝉を捕まえて猫に与えてしまいました。

 猫の魅力はすごい。

 そんな事に感心している場合では有りません。

「私は自分で自然の摂理を破ってしまいました。お許しください」
とか言いましたが、すでに猫にやってしまいました。


 蝉は大きな声で鳴きながらバタバタし、部屋中をあっちに行きこっちに行き、壁にたかったら猫がジャンプして飛びかかり、蝉は鳴きながら逃げ回り結局背を下にして床に落ちてしまいました。

 「嗚呼、蝉の運命やいかに!!」

 ところが猫は手でつつくのですが、思ったより大きな鳴声なのとバタバタするためなのか、ガブっと咥える事が出来ません。

 結局そこで私は与えた責任上、自分でガブっと咥えて為留めたのではなく、捕まえて北側の窓から逃がしてやりました。

 そんなわけで「禁断の蝉」は、どうにか保っています。

 その蝉には後日談が有って、というか5秒後談ですが、家の北側から屋根の上を飛び越えて、結局同じ網戸にたかって鳴いていました。
 うるさくて始末したくなりましたが、やがて南の方へ飛んで行ったとさ。

 めでたし、めでたし。

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