昔、「ニク」という名前の雄猫がいた

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 昔、「ニク」という名前の雄猫がいた。

 うちは雑種しか飼った事がなく、その当時何匹か生まれたうちの一匹で、濃いめのアメリカンショートヘアーの様な毛だった。

 千代の富士関が現役の、時代が昭和から平成へ移り変わる頃だった。

 ニクは横綱に似た体格で、性格は無口で、馬力で押すタイプだった。
 肥っている訳ではない。

 ニクは高いところが苦手だ。ちょっと高いと降りられなくて困っている。

 背中を丸める猫背が苦手で、かといってエビぞりも苦手で、猫にしては著しく柔軟性に欠けていた。
 後ろに振り返るときは、胴体ごと足場を変えないと振り向けない。首も太かった。
 腹に手を回し持ち上げても、形状(姿勢?)が変わらないほど剛性が高い。

 比重は重く、もし水に浸けたとしたらそのままブクブクと底まで沈んでいきそうな、鉄のような重さがあった。すごくマッシブだ。


 だから、誰しも自然と「ニク」と呼んでいた。


「ニクは?」
「さっきまで陽にあたっていたよ」
「ニクって、塊で重いよね」
「あのニクってさあ、脂少ないよね」

 「チビ」や「ラッキー」なら猫か犬っていうのが分かるだろうが、「ニク」が猫の名前だと知らない人には、珍粉漢粉な会話に写ったか、著しく衛生観念のない人達だと感じただろう。
 
 
 
 ニクはお腹を上にした普通のダッコが苦手で、そうダッコすると這い上がり自ら縦ダッコの形に収まる。
 このかっこうでは、猫は人の肩に両手を掛ける。人と猫のどっちも幸せだ。
 それでも顔は面してないので、お互い気を使わないですんで楽だ。あくびしてもバレない。猫ならバレても構わないか、怒られはしない。


 うちではその形を「ニクダッコ」と呼んでいた。


 自ら寄ってくるタイプの猫ではなかったので、またダッコしてもその重さでニクダッコの姿勢を続けるのは人間に重かったためか、どちらかというとダッコしてもらえる機会は少なかった様に思う。

 ニクは無口だったためか、何となく健(ケン)さんに仕草が似ていた気もする。角刈りが似合いそうだ。黄色いハンカチだ。

 ニクは無口で無愛想だが、ニクダッコをしてしっぽのところをトントンと叩いてやると、しっぽを持ち上げ気持ちよさがり、「ん、ん、んあにゃ〜」と鳴いたり「舌ぺろぺろ」や「ゴロゴロ」したりする(犬派の方へ:「舌ぺろぺろ」はしっぽトントンをしたときに猫の見せる反応の一つです)。

 このときのニクは、きっと陽気に酔っぱらった健さんみたいだと思う。お会いした事ないが。


 猫をお好きな方は思い浮かぶと思うが、縦ダッコをしてしっぽトントンしてやると、猫は大抵しっぽを持ち上げ後ろ足を踏ん張って立つのである。猫の手は肩に置いたままだ。

 そうすると、露になった猫の肛○が前を向く。
 雄猫は雌猫よりきれい好きじゃないのが多いで、時々ンコが着いてたりする。

 この姿勢は、猫と人が共同して行える護身の方法に認定されるだろう。

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