僕が料理が好きになったわけ

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 僕が料理が好きになったわけ

 私は昭和40(1965)年に生まれ、最初の数年間住んでいた本家は、土間にかまどがある古い家でした。
 おかずは台所のプロパンガスのコンロで料理していましたが、ご飯はかまど炊きでした。
 薪は裏山から拾い集めてました。

 かまどに薪をくべるのが面白くて、おじいちゃん(本当のおじいちゃんではない)がどこかに行っている間は、替わってしていました。

 冬場はすぐに暗くなるから松明ごっこが面白いんだ。
 ヒーローのつもりで火のついた薪を持って裏山へ行き、悪党探しでそこいら中にたき火を突っ込んで、でもすぐに飽きて火がついたままどこかに放ってきちゃうので、大人は大変だ。

 鶏を飼っていて時々近くの人に頼んでさばいてもらったり、玉子はすごく貴重で、海の魚は干物しか無いような田舎です。

 ネコは何匹か飼っていて、自給自足でネズミを捕っていたのか、餌はあまりやっていなかったと思います。
 私がネコをおぶっている写真があります。ネコに引っ掻かれて顔中が傷だらけです。

 犬にベロンベロンと顔を舐められたのが犬嫌いの始まり。
 犬は嫌いじゃないけど舐められるのが嫌い。ネコに舐められるのは好き。

 庭にあるものや適当にもらってきた残り物を、姉と一緒にたき火でままごとの煮炊きをして、鶏や犬にやっていました。それが多分一番最初の料理です。
 自分では食べませんでしたが。


 その当時、2度引っ越しをしましたが、どちらも近くです。
 本家には餅つきなどで良く戻っていたので、子供の頃から薪に火をつける事を当然の日常行為にしていたので、中学生以降のキャンプでの料理はいつもの延長で、薪での料理を特別視する理由が理解できませんでした。


 2度目の引っ越しで5歳になりました。
 私の母はその当時の「職業婦人」の走りで、公共衛生関係の仕事をしていました。ウーマンリブの頃です。
 母は平日の昼間は家に居なかったのですが、母方のおばあちゃんが面倒を見てくれていました。
 父方の祖父母はどちらも私が生まれる前に亡くなっていました。

 母は日曜日くらいしか家に居なく、考えてみれば子供(私)の面倒はあまり見なかったのですが、そういうときだからこそ料理などで一緒に遊んでくれました。

 包丁を持ったのは多分それが最初で、初めて切ったものは、チャーハンかカレーの為にタマネギかなにかでした。
 普通にスライスするように言われたのに、私はおもしろがってみじん切りにしてしまい、母は困ったのだと思いますが、普段面倒を見てない弱みがある為か、
「まあ、教えていないのにこういう事で来たので、偉いわね。でも次からは言われた通りに切ってね」
という感じで怒られはしませんでした。

 その時に料理というか、食材を切る事の面白さを覚えた気がします。

 今考えてみると、母はあまり料理が得意ではなかった様に思います。煮染(にしめ)くらいしか上手でなかった。
 仕事柄か、とにかく何でも塩分を少なくしていて、美味しくなかった。漬け物も薄すぎて漬からずにカビが生える始末です(笑)。
 痴呆となった今でも「しょっぱいものはダメだ」と言い続けています。

 煮染に限っては昔覚えた所為か、これだけはしっかりとした味付けでした。
 東北の海辺の出身なので向いた食材が少なかったのもあるかもしれませんが、「工夫してでもあの味を食べさせたい」という気も無かった気がします。単に食べ物への興味が薄かったのかもしれません。


 3つ年上の姉がいるのですが、彼女も料理が好きで、私より年上な事もあり、雑誌の先駆け記事を読んだのか、一般的になる前のクレープを家で作ったりしていました。
 その後、中学生ぐらいの時から、食事当番というほどではないのですが、私が週に何回か料理をして、カレーを作ったりしていました。
 そういうのも何の違和感も無くしていたので、料理は男女問わず誰もが当然するものと思っていました。


 20歳くらいの頃におばあちゃんが亡くなって家でお葬式をしたのですが、その時来てくれた従兄弟の旦那さんが国際的な仕事をされている方のお抱えのコックさんをしていました。
「人数多いからおでんでも作ろうか」
と言ってくれて、あっという間においしいおでんを作ってくれました。私にはそれが魔法のように感じました。

 私の知り合いで食べ物や料理に悪い言い方しかしない人がおられて残念なのですが、その人に話したら、
「そんなの当たり前じゃん。コックの料理なんて出汁が濃いだけで、旨く感じるのはそれでごまかされているんだよ」
と言われてちょっとショックだったのですが、私には最高のおでんでした。

 多分このおでんが私が料理を好きになった、またそれを決定づけた最大の理由だと思います。


 大人になってからの仕事が音楽関係で、この業界は料理が好きな人の比率は一般よりも高いのですが、逆に自分の音楽に没頭して食に無頓着な人の割合も同様に高いという不思議な世界です。

 そうなると料理が好き同士で仕事をしたり、料理好きはたいてい酒も好きなので良く一緒に呑んで喰ってで遊んでいました。
 呑みに行って料理人に「これどうやって作るの?」と聞いたり、またはL字カウンターの短い辺に座ると板前さんの手もとが見れるので、そういうことで作り方を盗んだりしていました。

 実はそうとう以前に、弁当屋でバイトをした事があるのですが、一回覚えるとやる事一緒だし、創意工夫が出来ないので、すぐに飽きてしまいました。
 だから料理はきちんと学んだ事が無くて、自己流すぎると思っています。
 パティシエの様なお菓子作りもした事が無いので、いつかはどちらもきちんと勉強したいなあと思っています。


 東南アジアでしている仕事では実は飲食関係もやっていて、今はそっちにはほとんど行っていないのですが、隠居したら力を入れたいなあと思っています。
 日本で旅館というかオーベルジュというか、料理をメインとしたおもてなしをさせていただく事業をしたいと考えているところですが、どうなるやら。


 そういう世界に居たので、男性の方も誰もが当然普通に料理をするものだと思っていたのですが、そうでは無いというのが分かってきたのがついこの頃です。
 気づくのが遅いですよね(笑)。

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