結構ウソが隠れている健康法 新潟大医学部・岡田正彦教授が指南

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記事:毎日新聞社
提供:毎日新聞社

【2007年9月4日】

特集ワイド:新潟大医学部・岡田正彦教授が指南 結構ウソが隠れている健康法

 ◇夏バテ脱出、メタボ対策、ストレス解消...「ほどほど」が一番

 夏バテ脱出の季節がやってきた。メタボ対策、ストレス解消、それとも新手のダイエット? 健康法をいろいろ試してみたくなるけど、予防医学と長寿科学が専門の岡田正彦・新潟大医学部教授(61)は「健康には、ほどほどが一番」という。【小国綾子】

 メタボリック症候群が注目を浴びる中での、胸痛むニュースだった。三重県伊勢市役所の男性課長(47)が8月、市の「7人のメタボ侍 内臓脂肪を斬(き)る!」という企画に参加。100センチのウエストの10センチ減を目標に運動中、急性虚血性心不全で急死したのだ。

 「ほどほど」が信条の岡田医師は「最近、『肥満=悪』と騒ぎ過ぎ。急な運動やダイエットはむしろ危険」と警鐘を鳴らす。「確かに肥満は多くの病気と関係が深い。しかし、米国で4万人もの男性医療従事者を対象に10年間調べた結果、一番長生きしたのはBMI(体重キログラム÷身長mの2乗。日本では25以上が「肥満」。標準値は22)が24、すなわち少々太めの人でした」

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 人々が何となく信じている健康法には、結構ウソが隠れている、と岡田医師は指摘する。

 例えば「血液サラサラ、ドロドロ」という言葉。タマネギで、納豆で、大量の水で、血がサラサラと血管を流れていくさまをイメージした人も多いはず。しかし、岡田医師はこのイメージを一笑する。「視覚的に分かりやすい映像をメディアが多用したため、『血液サラサラ』を生活習慣病予防のカギと誤解した視聴者も多いようです。でも実際には、血液はテレビが言うように『サラサラ』や『ドロドロ』にはなりません」

 私たちの体内では、細い所ではわずか2˜3マイクロメートルの毛細血管の中を、8マイクロメートルほどもある赤血球が形をしなやかに変えながら流れている。赤血球がしなやかさを失うと血管を通りにくくなる。コレステロールや中性脂肪を包むリポタンパクが増えても同じ。医学の世界では「血液の粘度が上がる」と表現する。

 しかし、「健康番組が主張するように、何かの食べ物やサプリメントを口にしただけで急に血液の粘度が上がったり下がったりはしません。おまけに血液の粘度と生活習慣病との関係は未解明。『血液サラサラ=健康』は二重の意味で間違えているのです」。さらに「水を大量に飲もう、という健康法もナンセンス。この夏はむしろ、水分の取りすぎで血液が薄まり、疲労感や足がつるなどの症状を訴える患者さんが目立ちました」と注意喚起する。

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 最近はストレスが目の敵にされ、「ストレスをためる人は長生きできない」という説もある。中には「ストレスを解消せねば」と思い詰め、余計にストレスをためる人もいるそうだ。しかし、「実はストレスを数値化するのは難しく、確立した検査法もない。せいぜいアンケートがあるだけです」。

 例えば、97年に米国心臓学会誌に報告された調査。健康状態や老後、家計、リストラ、孤独などの身近なテーマについて不安の度合いを尋ね、心筋梗塞(こうそく)の発症率との関係を調べた。両者の間には比例関係が見られたが、死亡率とストレスの間には関係は見られなかったという。「ストレスはためないにこしたことはないが、ストレスだけで早死にすることはない。あまり思い詰めないのが一番です」

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 ストレスをためた時、つい手を伸ばすのが酒やたばこ。運動で上手にストレス解消する人もいるのだろうが......。健康とはどんな関係にあるのだろう。

 まずアルコール。「基礎研究レベルでは、アルコールは人間の体には毒でしかない。ところが、大規模な調査を実施すると、毎日コップ1杯程度のアルコールをたしなむ人が一番死亡率が低いことが判明した」

 理由は未解明。「おそらく、軽くアルコールを飲むことでリラックスする時間を確保できることが、良い効果を上げているのでしょう」と岡田医師。1杯だけ、というあたり、やはり「ほどほど」が大事らしい。

 一方、「ほどほど」でも済まないのが喫煙だ。「がんの約21%は喫煙が原因で、両親のいずれかが喫煙している家庭で25年間を過ごした子どもの肺がんになる確率は2倍。心筋梗塞、脳卒中、慢性肺疾患などの原因にもなる」。米国の調査では、たばこを吸わない人の死亡率を1とした時、1日15本で死亡率が約1・5倍、20本で約2倍になった。「喫煙者の中には『禁煙してももう遅い』という人もいる。でもこの調査では禁煙後約3年たった人の死亡率が、吸っていない人と同じだった。今からでも間に合うのです」

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 運動と病気との関係はどうだろう。「運動不足でがんが増える、という事実が最近判明しました。特に大腸がん、乳がん、子宮がん、肺がんなどで増えます。さまざまな調査結果を総合すると日常的に運動している人に比べ、ほとんどしていない人は、9%ほどがんが多い。また、心臓病、糖尿病、高血圧症も運動不足で増えることが明らかになっています」

 運動不足は、なんと寿命にも影響する。英国で2万人以上を対象に8年間実施された追跡調査によると、仕事やスポーツによる運動量が増えるに従って、寿命は長くなったという。

 メカニズムまでは解明されていないが、1日30分程度の有酸素運動が一番、寿命を延ばすという調査結果もあるそうだ。一方、単なる徒歩では効果がないこともわかっている。「ただ歩くのではなく、心拍数が少し上がる程度の運動が大切。例えば大また歩きや軽いジョギング」

 ただし、これもまた「ほどほど」が一番。無理な運動は体に悪い影響を与えかねない。

 つまりは何事もほどほどに、というのが岡田医師の「ほどほど養生訓」だ。「もっとも、『ほどほど』と言うと、今度は『ほどほどの範囲とはどのくらいなのか』などと神経質になる方もおられます。人間にとっての『ほどほど』の許容範囲は案外広いのだと思いますよ」

 まずは肩の力を抜き、「ほどほどに」始めてみよう。食欲と運動の秋はもうすぐそこだ。<え・清田万作>

 ■ほどほど健康法5カ条■

 (岡田医師作成)

 一、毎日30分の運動

 一、肉より魚、バターより植物油を。穀物、野菜、果物、大豆などをできるだけ多く食べる

 一、コレステロール、塩分の多い食品はできるだけ避ける

 一、BMIを26以下に

 一、1日1杯のアルコールかお茶でリラックス

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 ■人物略歴

 ◇おかだ・まさひこ

 京都府生まれ。新潟大医学部卒。01年度に臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」受賞。「ほどほど養生訓」(日本評論社)「人はなぜ太るのか」(岩波新書)「がんは8割防げる」(祥伝社新書)など著書多数。

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