奥様の心の健康に注意 香山リカのココロの万華鏡

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記事:毎日新聞社
提供:毎日新聞社

【2008年5月13日】

香山リカのココロの万華鏡:奥様の心の健康に注意 /東京

 病院は看護師、事務職員と女性の多い職場なので、たまに異業種の人たちが集まる場に行くと、女性の割合の少なさに驚くことがある。診察室以外の場で初対面の相手と話すのはきわめて不得意な私だが、「あなたのお仕事は?」ときかれるとウソをつくわけにもいかないので、「ま、セイシンカイというやつで」と正直に話す。

 するとときどき、話し相手である男性経営者や会社役員が、自分の妻に関する心配事を語り出すことがある。

「ウツ、っていうんですかね? メソメソ泣いてばかりで、外に出ようとしないんですよ」「なんだか一日中、手を洗ってばかりいるみたいなんです」「自分は狙われてるとか言って、窓を黒い紙でおおっちゃって。おかしな奴ですよ」

 このように、「え、それは病気なんじゃないですか」と思わず言いたくなるような話も少なくない。おずおずと「それで、奥様は精神科の診察は受けていらっしゃるのでしょうか」と尋ねると、ほとんどの人は「いやあ、そんなところには行ってませんよ」と笑い飛ばす。

 話を聞いたからにはこちらもそのままにはできず、つい「一度、専門医に相談に行かれたほうがいいのでは? 何なら私が勤務する病院でも」とすすめてしまうのだが、「まあ、現代人はみな心の病にかかっているようなものですからな、ワハハ」などと一般論に話をすり替えてうやむやにしよう、とする人も少なくない。

 もしかすると、社会的に活躍する男性の妻で、専業主婦をしていてあまり社会との接点もないままに、強迫神経症やうつ病を患いつつ治療も受けずにいる人は、けっこう多いのではないだろうか。

 彼女たちは、夫が忙しすぎて病院に連れて行くヒマもないとか、世間体があるとか、いろいろな理由で治療を受ける機会を逃し、気軽にご近所の主婦仲間に相談したりもできないまま、苦しんでいるのだ。

 そういう話を聞くと、自分はどれだけ介入すればよいのだろう、といつも頭を悩ませてしまう。「いや、笑ってる場合じゃないですよ。明日にでも奥様を病院にお連れください」などとその会合の席で言えば、「失礼な人だ」と思われるかもしれない。かと言って、「まあ、健康診断の折にでも精神科にどうぞ」などと社交辞令ですませるのは、あまりにその人の妻が気の毒。

 専業主婦の女性を適切な医療に導いてあげられるのは、その夫だけなのだ。世間のご主人たち、もう少し奥様の心の健康に気をつかってあげてはいかがだろうか。

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