健診「異常なし」でも心筋梗塞多発

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コレステロール
健診「異常なし」でも心筋梗塞多発
2008年11月7日(金)0時0分配信 読売ウイークリー
掲載: 読売ウイークリー 2008年11月16日号

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健康診断の季節。メタボ宣告にため息をつく人も、「異常なし」に安堵する人も、よく聞いてほしい。健診は正常値でありながら、急性心筋梗塞で倒れる人が続出しているというのだ。(本誌 梅崎正直)

地方都市に住むAさん(54歳男性)はこれまで、病気らしい病気をしたことがなかった。少し前の健康診断でも、「異常」は見当たらなかった。ところが近ごろ、力仕事をするたび、胸に痛みが走るように。

 気になるので病院へ行くと、医師から意外なことを告げられた。

 「このまま放っておくと、心筋梗塞になりますよ」

 心臓の冠動脈が細くなり、いわゆる狭心症の状態。動脈硬化も進んでいるという。健診では、動脈硬化を進行させる「悪玉」ことLDLコレステロールが134㎎/dl、逆に動脈硬化を防ぐ「善玉」のHDLコレステロールは44㎎/dl。ともに「正常値」だったのだが......。

「悪玉」正常値でも心筋梗塞は多発

 健康診断での「悪玉」LDLコレステロール(以下LDL--C)の正常値は、一般的に「140㎎/dl未満(中リスク群)」とされている。ところが、これが正常値でありながら急性心筋梗塞などで倒れるケースが少なくないことが、最近の研究で明らかにされつつある。

 社会医療法人社団カレスサッポロ北光記念クリニック(札幌市)、佐久間一郎所長らの研究によると、1999〜2001年の間に初めて急性心筋梗塞になり、北海道24病院へ搬送された患者955人のうち54・5%がLDL--C120以下、30・3%がLDL--C100以下だった。対照群ではそれぞれ37・3%、18・9%なので、「心筋梗塞を起こす人はLDL--C値が高い」とはいえないのだ。


 同様の実態は、他の医療機関からも報告されてきている。小倉記念病院(北九州市)のデータでは、急性冠症候群(心筋梗塞およびその一歩手前の状態)患者(371例)のうち38%がLDL--C100未満で、症例全体の平均も111と低かった。

 日本大学心臓血管外科の秦光賢講師のもとにも、急性期の患者が数多く搬送されてくるが、「外科に送られてくるのは重症例が多いのですが、それでもLDL--C120前後の患者が少なくない」という。

 つまり、「LDL--C値が正常イコール安心」ということではないのだ。では、心筋梗塞のリスクを知るためには、何に注目すればいいのか。

 佐久間所長らの研究によると、LDL--Cが120未満で心筋梗塞等を発症した患者のうち、糖尿病や高血圧にかかっていた人は8割超。こうした人はLDL--C値が正常でも、動脈硬化が進んでいる可能性が高い。

 また、LDL--C値が低くても、善玉であるHDL--C値も低ければリスクは高まる。そこで、新たな基準として注目されているのがLDL--CをHDL--Cで割った「LH比」だ。

 関東地方で看護師をしていたBさん(24歳女性)が、外来での仕事中に突然倒れた。急性心筋梗塞。都内の大学病院に運ばれたときには、すでに手の施しようもなかった。

 若い患者の場合、ヘビースモーカーだったり、特定の既往症があったりするのがほとんどだが、それもBさんにはなかった。血液を調べると、LDL--Cは90と正常値。ところが、HDL--Cを見ると20しかなかった。


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北海道内の急性心筋梗塞患者(955例)と対照群(1892例)の脂質値比較


「超悪玉コレステロール」の仕業?

 佐久間所長の研究によると、LH比が、LDL--C120未満の心筋梗塞患者では「2以上」、100未満では「1・5以上」になるケースが多かった。つまり、この比の値が高いほど、動脈硬化、心筋梗塞を心配しなければならない。Bさんのケースでは、HDL--Cが異常に低かったため、LH比は4以上。冒頭のAさんのケースは、LDL--C、HDL--Cとも「正常」ながら、実はLH比が3を超える「危険水域」だったわけだ。

 ところで、なぜLDL--Cが低くても動脈硬化が進む人がいるのだろうか。佐久間所長は、

 「こうしたケースには、粒の小さなLDLに含まれる『超悪玉コレステロール』が関与していると思われます。LDLでも粒子が小さいタイプは、容易に血管内皮細胞の下に入り込むため、動脈硬化を進行させやすいのです」。

 粒が小さいので、数が多くてもLDL--C値としては低くなる。つまり、健診ではLDL--Cが正常値のまま、動脈硬化を着々と進行させる厄介者なのだ。

 こうした新事実が明らかになるにつれ、問題になるのは、現在の診断基準だ。動脈硬化学会が提唱する「LDL--C140未満(中リスク群)」「HDL--C40以上」という基準値が適切かどうか。そして、「LH比」を診断基準に加えることの必要性も議論されなければならないだろう。

 またLH比を基準とすれば、予防、治療のあり方も当然変わってくる。LDL--Cを下げるだけでは不十分だからだ。

 「LH比が2以上、糖尿病や高血圧症では1・5以上ある場合には、LDL--Cを下げる治療とHDL--Cを上げる治療を並行して行うべきでしょう。以前はHDL--Cを上げるのが大変でしたが、今は両方に効く良い薬もあります」(佐久間所長)

 秦講師は、こうも話す。

 「私は、40歳以上の男性患者なら、LH比が2・5以上になると薬物治療に入ります。それ以外の人は、まず食生活の改善、適度の運動、禁煙を心がけてもらいます。HDL--C値を上げるためには、運動や生活習慣の改善が非常に有効なのです」

 健診結果がそろそろ通知されるころ。毎度「異常なし」のあなたも、今回は「LH比」を計算してみてほしい。


http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/yw-20081107-01/1.htm

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