アップルが、極秘の社内研修で教えること

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アップルが、極秘の社内研修で教えること
ピカソで学ぶアップル精神

The New York Times
2014年08月20日

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アップル本社(カリフォルニア州クパチーノ) (Peter DaSilva/The New York Times)

 自らをピカソになぞらえるテクノロジー企業は、世界でもアップルくらいだろう。

 昨年、アップルの社内研修に、ピカソの『The Bull(牡牛)』が完成するまでを物語る11枚のリトグラフが登場した。アップルのデザイナーが簡潔さにたどり着く過程は、ピカソが細部をそぎ落として傑作を仕上げていく過程と同じ、というわけだ。

 スティーブ・ジョブズが設立した「アップル大学」は、社員に企業文化をたたき込み、自社の歴史を教えるための社内研修プログラムだ。アップルが企業として成長し、テクノロジー業界が変化するなかで、大きな役割をはたしてきた。

 受講は義務ではなく推奨されるかたちだが、アップルに新しく加わった人々が敬遠することはほとんどない。最も旬な新顔──アップルが買収したヘッドホンメーカー、ビーツ・エレクトロニクスの共同創業者、ドクター・ドレーとジミー・アイヴォン──も、カリフォルニア州クパチーノで学生に戻るかもしれない。

緻密に計算されたプログラム

 似たような研修プログラムを持つ企業は多いが(「洗脳」と呼ばれることもある)、アップル大学はテクノロジー業界でとりわけ推測と羨望を集めている。

 徹底した秘密主義で、記事などで紹介されることはめったにない。伝記『スティーブ・ジョブズ』(ウォルター・アイザックソン著)でも少ししか言及されなかった。

 アップルの社員は基本的に、会社について社外で語らないように教育されている。社内研修も例外ではなく、講義の写真が公になったことはない。広報担当者は今回、講師への取材の申し込みに応じなかった。しかし、アップル大学で学んだことがある3人の社員が、匿名を条件に話を聞かせてくれた。

 研修プログラムは、アップルとアップルが世界に発信するイメージを鮮明に反映している。アップル製品と同じように緻密に計算され、洗練されたプレゼンテーションが行われる。きらめくような外見が、その裏の努力をほとんど感じさせない。

 「トイレットペーパーまでが本当にしゃれている」と、取材に応じた社員は言う。

 多くの企業と違って、アップルの社内研修部門は1年をとおして活動している。講師や教材のライター、編集者などのスタッフは常勤。イェール大学やハーバード大学、UCLA(カリフォルニア大学バークレー校)、スタンフォード大学、MIT(マサチューセッツ工科大学)からの転職組もいて、大学に籍を置いたままの人もいる。

 社員は社内専用のサイトから、自分の職種や経験に合った講義に登録する。たとえば、新しく買収した企業の創業者に、資源や人材をアップルと円滑に統合する方法を教える講義もある。ビーツの場合も、特別な内容が編纂されるかもしれない。ドクター・ドレーとアイヴォンのためだけの講義も用意されるのだろうか(この件について、アップルもビーツも取材に応じなかった)。

 アップル大学の教室は、キャンパスと呼ばれるアップル本部の敷地内の建物「シティセンター」にある。講義の内容と同じく、アップル製品のように緻密に計算された環境だ。明るい教室は後列が高くなった台形状で、どの席からも講師がよく見える。中国など国外のオフィスに講師が出向くこともある。

 ジョブズが共同創業者に名を連ねるピクサー・アニメーション・スタジオ出身のランディ・ネルソンは、「アップルにおけるコミュニケーション」の講師の1人。この講義はさまざまな職位の社員が受講でき、明快なコミュニケーションを学ぶ。直感的に理解できる製品をつくるためだけでなく、同僚とアイデアを共有し、製品のマーケティングを考えるためのコミュニケーションだ。

 昨年のある講義で、ネルソンはピカソの『牡牛』(1945年)を題材に使った。11枚のリトグラフが、約1カ月をかけて「牡牛」が完成していく過程を物語る。
最初のうちは鼻先が長く、脚の付け根の肉が盛り上がり、ひづめもあるが、次第にそぎ落とされていく。最後の1枚は細い曲線だけで描かれているが、まぎれもなく牡牛だ。

 「ごく簡潔な方法でメッセージを伝える段階に達するまで、何回もやり取りをする。それがアップルというブランドであり、アップルのすべてのやり方だ」と、受講者は振り返る。

 ネルソンは、「アップルをアップルたらしめるもの」の講義も時々担当する。昨年の講義ではグーグルTVのリモコンのスライドが登場した。リモコンにはボタンが78個。続いて映し出されたアップルTVのリモコンは薄い金属性で、ボタンは3個しかない。

 アップルのデザイナーは、なぜボタンを3個にしたのか。彼らは議論を重ね、本当に必要なものだけ──再生/一時停止ボタン、決定ボタン、メインメニューに戻るボタン──に行き着いたのだ。

 対照的にグーグルTVのリモコンは、エンジニアやデザイナーが自分の求めるものをすべて盛り込んだからこれほど多くのボタンがあると、ネルソンは説明した。

企業文化を浸透させる

 「最高のもの」という講義のタイトルは、ジョブズの言葉から生まれた。才能のある仲間や品質の高いものなど、最高のものに囲まれていれば、最高の仕事ができるという文化を伝える講義だ。

 クリエイティブ・ストラテジーズの消費者テクノロジー担当アナリスト、ベン・バジャリンは、アップルが成長を続けるうえで、アップル大学はますます重要になると語る。

 「人々の生活を変える最高の製品をつくっていると、社員が確信している。このアップルならではの文化は、今後数十年間、同社のケーススタディでつねに注目されるだろう。アップルはこの文化を浸透させようとしているが、会社が大きくなるほど難しくなる」

(執筆:Brian X. Chen記者、翻訳:矢羽野薫)
(c) 2014 New York Times News Service 


http://toyokeizai.net/articles/-/45759

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