「火山影響評価は科学的とはいえない」

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川内原発審査の問題②高橋正樹・日本大学教授
中村 稔、岡田 広行 :東洋経済 編集局記者
2014年08月07日

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高橋正樹(たかはし・まさき)●1950年生まれ。東京大学理学部地質鉱物学科卒業。東京大学大学院理学系研究科博士課程(地質学)修了、理学博士。茨城大学理学部教授を経て、日本大学文理学部教授、現在に至る。専門は火山地質学、岩石学。

 川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)特有のリスクと考えられるのが、カルデラ火山の影響だ。川内原発周辺には桜島のある姶良(あいら)カルデラ、霧島周辺の加久藤(かくとう)・小林カルデラ、指宿周辺の阿多カルデラなど、巨大カルデラ火山が林立している。原子力規制委員会は2013年6月に自らがまとめた、「原子力発電所の火山影響評価ガイド」(以下、火山ガイド)に基づいて審査しており、川内原発については「運用期間中(核燃料が存在する期間)に、設計対応不可能な火山事象によって、本発電所の安全性に影響を及ぼす可能性について十分小さい」とした九州電力の評価を妥当と判断。立地不適とはしなかった。
 しかし、こうした審査については、火山学者などの専門家から疑問の声も上がっている。第2回は、火山地質学が専門で桜島火山・姶良カルデラなどの研究も続ける、高橋正樹・日本大学文理学部地球システム科学科教授に、審査の問題点について聞いた。


――規制委の火山影響審査についてどう評価していますか。

今回の審査の問題点を端的に言えば、できもしないことをできるかのように扱っており、必ずしも科学的とはいえないということだ。一見、科学的な評価をしているように見えるが、実際はそうではない。できないことをできるといえば、結果的に国民にウソをつくことになりかねない。新たな「安全神話」をつくるようなことがあってはならない。
問題は、火山審査の基準として、規制委が作った火山ガイドにある。中でも大きいのは、噴火の時期や規模を予測するために階段ダイヤグラムを使う点であり、もう一つが地殻変動の観測などによって超巨大噴火も予測できるとしているモニタリング(監視)だ。

階段ダイヤグラムで議論するのは困難

階段ダイヤグラムというのは、縦軸に噴出量を取り、横軸に時間を取って、噴出規模や噴出時期を予測する方法だが、理想的なものを作ることができれば役に立つが、実際問題として作るのが非常に難しい。噴出量の見積もりの誤差が大きく、年代測定も難しい。10人研究者がいれば、10通りの階段ダイヤグラムが作られる。そういうものだ。

ところが規制委は、階段ダイヤグラムによって火山活動の全体を予測できるという前提に立って、火山ガイドを作っている。それで原発規制の厳密な議論ができるのかは非常に疑わしい。

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火山灰など現実的な噴火の影響評価も不十分、と指摘する高橋教授

――審査の結論では、姶良など川内原発周辺のカルデラ火山がVEI7以上(VEIは噴火の規模を表す指標)の巨大噴火を起こす可能性について、「平均発生間隔は約9万年」であり、最新の噴火が約3.0~2.8万年前であることから、原発の運用期間中の噴火の可能性は十分低いとしています。

そもそも平均間隔を予測することは難しい。しかも、それはあくまで川内原発が一瞬にして火砕流に飲み込まれてしまうような、超巨大噴火の可能性だ。3万年近く前に超巨大噴火が発生した姶良カルデラでは、その後、マグマの供給が確実に進んでおり、VEI5~6クラスの噴火なら、いつ起こっても不思議ではないともいえる。


 
 風向きにもよるが、川内原発に影響を与えるという意味では、VEI5でも十分に大きい。桜島の大規模の噴火でも、火山灰の影響はある。それで電線がショートしたりして、外部電源が喪失されれば、事故が起きうる。超低頻度でまれにしか起きない超巨大噴火の発生予測よりも、現実的に起こりうる噴火の影響評価をケースに応じてもっと詳細に行うべきではないか。

巨大噴火の時期や規模は予測できない

――モニタリングではどこに問題がありますか。規制委の審査では、過去に川内原発まで火砕流が到達したことが否定できない、加久藤・小林、姶良、阿多のカルデラなどのモニタリングとして、地殻変動などの観測を行うという九電の計画を、火山ガイドを踏まえたものとして了承しました。

噴火の予測にはいろいろな方法があり、火山性地震・微動をはじめ、地殻変動(マグマ溜まりによる地殻隆起)、電気抵抗や重力の変化、二酸化硫黄など火山ガスの量の変化がある。これらによって噴火が起こる可能性はわかるが、噴火の規模はわからないし、噴火が発生した後でどう推移するかもわからない。これが現在の噴火予知の限界だ。

このうち、噴火規模について、ある程度の予測が可能なのは、地殻変動による推定だ。これまでの研究によると、姶良カルデラ内にある桜島火山のマグマ溜まりには、10年あたりおよそ0.1立方キロメートルのマグマが供給されていると推定される。過去2.6万年の間に260立方キロメートル近いマグマ溜まりが形成された可能性もある。この半分の量が桜島火山として噴出したとしても、100立方キロメートル以上の超巨大噴火に匹敵する(100立方キロメートルは琵琶湖の容積の約4倍)。そのため、姶良カルデラにおける超巨大噴火の可能性は、完全には否定できない。

しかも、どの時点で噴火するかは不明で、直前予測は困難だ。最終的にどの程度の規模になるかもわからない。急激な隆起が見られても、噴火には至らず終息するケースもある。つまり、地殻変動モニタリングによっても、巨大噴火を正確に予測することは難しい。それが大多数の火山研究者の見方だろう。

――そういう状況で、地殻変動による警戒時にいつ原発から核燃料を運び出すのか、判断できるのでしょうか(火山活動の兆候把握時における原子炉停止や核燃料搬出などの九電の対処方針は不明)。

ほとんど判断できないだろう。原子炉停止、核燃料搬出などの対処方針を定めるというが、どこに運び出すかも明らかでなく、本当にできるのかは非常に疑問だ。噴火の予兆が出て核燃料搬出の判断をしたとしても、原子炉を冷温停止して運び出すには時間がかかるともいわれ、間に合うかどうかもわからない。

――規制委による火山ガイド策定では、ごく一部の火山学者しか関わっていないとされています。

火山学会に評価が依頼されたわけではない。火山の影響評価においては何が重要か、規制委の内部で十分練られていないのではないか。

――川内原発以外の原発で、火山の影響に注意すべきところはどこでしょうか。

北海道の泊原発では、有珠山が大規模な噴火をした場合、風向きによっては影響が及ぶ。江戸時代に活発に活動した樽前山などの火山もあり、近々噴火する可能性も十分にある。


 また(静岡県の浜岡原発に比較的近い)富士山にしても、江戸時代に大量の火山灰を広範囲に降らせた、宝永大噴火(1707年)から300年以上経っており、いつ大噴火が起きてもおかしくない。南海トラフを震源とする巨大地震が噴火の契機になる可能性もあるが、噴火以前に、巨大な地震や津波の可能性を考えれば、浜岡原発は世界で最も危険な原発と言えるだろう。


http://toyokeizai.net/articles/-/44770

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