産みたい女性にとって、日本企業はみんなブラックである

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2013年9月20日(金)

PRESIDENT Online スペシャル
著者
少子化ジャーナリスト、作家、白百合、東京女子大非常勤講師 白河桃子


不妊治療か養子しかない

 「日本の養子制度について聞きたいんですが......」

 あるセミナーで美人で賢い女子大生からこんな質問を受けました。なぜそんな質問をするのかと訊くと

 「私はキャリア志向なんですが、キャリアを追求するなら、若いうちに産むのは無理。不妊治療か養子で子どもを持つしかないと思うんです」

 えーっ!! それって誰から言われたの?

 「キャリア女性の先輩から言われました」

 こんな質問が出るのも無理はない。ブラック企業が話題になっていますが、働く女性の子育てと仕事の両立を取材していると、「日本の企業のほとんどが、産んで働く女性にとって、ブラック企業だったのだ!」という結論に達します。

 日本企業で働くことと産み育てることは、南極と北極のように対極にあるのです。

 なぜなら多くの日本企業にとって「24時間働ける、いつでも転勤可能な社員」が良い社員だからです。日本の会社、いわゆる学生の人気企業ランキング上位に入る名門企業ほど「10年は兵隊として」育成されるキャリアプランです。日本企業はメンバーシップ制と言われますが、その期間は仕事ができる、できないだけでなく、メンバーとしての「忠誠心」も試されていると言っていいかもしれません。

 評価は時間あたりの生産性ではなく時間です。その期間を「修行期」として、その後が「収穫期」になるわけですが、その10年間は女性にとって、結婚、出産のためにも大切な時期。しかも出産の後ろ倒しは難しいのです。なぜなら、妊娠だけは「厳然たる期限」があるからです。結婚が遅くなれば、妊娠も遅くなる。遅くなるほど妊娠できる確率は下がっていきます。産む体を持つ女性にとって「10年の修行期」は長すぎるのです。女性はもっと早くに育成しないと間に合わない。または柔軟なキャリアプランがないといけない。

「妊娠の限界」を直視する

 「30歳がちょうど昇進試験なんですが、昇進試験の前に産むべきか? それとも後にするべきか?」

 こんな質問もよく受けます。女性としての「産み時」がちょうど仕事のターニングポイントとも重なっている。これは男性だけを考えた昭和型のキャリアモデルのせいです。

 多くの会社の「女性活躍推進」セミナーなどに行きますが、「妊娠の限界」は「あいまい」にしたまま、産んで活躍するロールモデルの管理職が紹介されるというケースが多いです。しかし「妊娠の限界」という現実にきちんと目を向けないと、キャリアプランの立てようがありません。

 あるセミナーでは、子どもを持って管理職をやっている女性たちのほとんどが「流産」と「不妊治療」の経験者でした。中には「それがキャリアのためなら当たり前」と思っている人もいるぐらいです。それでも、ロールモデルとなっている彼女たちは「ラッキーなケース」で、そのまわりには、「結局子どもを持つことができなかった」もっと多くの女性たちがいるわけです。

 別の長時間労働で有名な会社では、27歳の若い社員が流産しました。「いや、マジ、この会社では産めない」と転職も考えています。帰宅は毎日夜10時をまわり、終電での帰宅も週に2回以上あるそうです。


「産む」×「働く」を手に入れる

 「女として働くことをすっかり忘れていました」

 ある会社のセミナーで、20代の女性に向けて「産んで働くキャリアプラン」についてお話をしたら、あとから女性社員の方にこう言われました。毎日残業し、深夜に焼き肉を食べに行くような生活。24時間働く周囲の男性社員(独身か専業主婦の奥さんがいる)にすっかり巻き込まれていたというのです。

 すでにお子さんがいて働くママたちもサバイバルな状況ですが、その前の結婚、妊娠ですら、働く女性にとってはサバイバルな状況。産むことを考えなければ、実力のある女性は男性と同等に活躍できる時代です。しかし産むことを考えると思考停止に陥ってしまう。

 産めない今の職場環境、その後の子育てとの両立はどうすればいいのか......。途方に暮れるような状況が揃っている中、やっぱり女性はしたたかに、しなやかに自衛していかなければならないと思います。

 会社の男性たちと歩調を合わせるふりをしながら、会社に洗脳されたふりをしながら、片目だけはしっかりあけておいてください。片目は働く社会人として、片目は「産む女性」として、しっかりと現実を見据えて、備えていかなければならない。

 こういうことを書くと、「女性だけが頑張るのか?」「男性にも教えてほしい」と言われます。もちろん、私が行う大学生向けのライフプラン授業は、共学の大学では普通に男子大学生も半分います。しかし、パートナーと2人で将来を話し合う前の男性に、こういう話をしてもピンとは来ないのです。

 幸いなことに「働き方や社会の問題」として考えてくれる真面目な男性はいますが、ほとんどが「自分ごと」にはなりません。社会の問題として、働き方など全体の問題としても変えて行くべき問題ですが、やっぱりその前に「女性自身が自分で考えること」が大切です。社会のためでもなく、ほかの誰のためでもなく、自分のために!
女性の「産むための時計」は1年1年進んでいくのです。社会や会社が変わることを待ってはいられません。

 このコラムは「産む」×「働く」を考える、女性のためのコンテンツですが、「いつかは仕事を辞めて夫に養ってもらいたい」女性も、女性活用に悩む企業の方も、そして日本全体を考える立場の人にもぜひ読んでいただきたい。「産む」×「働く」女性が増えないことは、日本の国力や消費にもかかわる重大な問題だからです。

 産み育てながら働く女性が、数多く職場に参入することで、最終的には日本の働く文化が大きく変わる力になる、働き方の革命もおきる......。今このコンテンツを読んでくれるあなたがどう行動するか。それが未来を変える力になるのです。
しなやかに、したたかに、「産む」×「働く」を手に入れていきましょう。

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白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、白百合、東京女子大非常勤講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『婚活症候群』(ディスカヴァー携書)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書) など。

http://president.jp/articles/-/10651?display=b

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