マレーシアで子育てすると、何がいいのか

| コメント(0)

マレーシアで子育てすると、何がいいのか
「英語は道具」ということが学べる国
野本 響子 :ジャーナリスト
2014年07月05日

Pasted Graphic 2.tif
素直で明るく育って行く子どもたちに強い印象を受けた(写真:ロイター/アフロ)

マレーシアでの子育てが密かなブームだ。その魅力は、どこにあるのか。また、気を付けなければいけないことは何なのか。クアラルンプールで子育て中のジャーナリストが、現地ルポをお届けします。

著者とマレーシアの出会いは、1990年代に遡る。はじまりは、たまたまインターネットで知り合った華人マレーシア人夫婦に日本の観光案内をしたのがきっかけだった。1990年半ばに初めてマレーシアを訪問し、彼らの子どもたちと2週間一緒に旅することになる。当時のマレーシアはまだ今のようなキレイな街並みではなかったものの、明るく開放的で、何よりも人々が親切なのに好感が持てた。その後、17年に渡る家族との交流で、マレーシアに来るたびに知り合いが増えていった。そしてなによりも、人々の子育てに対する考え方に驚くようになる。

子どもを置いての海外旅行は当たり前、子どもがハッピーじゃなければ転校、悪いことをしたらケーンで叩く、誘拐されないようデートの送迎も親が行う、小学生から数カ国語を学ぶのは当然で、レストランに子連れで行くのは日常、ほかの宗教を尊重する、塾通いや家庭教師は盛ん、でも自殺や引きこもりは少ない――日本で育ち、留学経験もなく、異文化というものに触れたことのなかった私には大きい衝撃であった。日本とあまりに異なるマレーシア人の子育て事情に興味を持つようになった。

素直で明るいマレーシアの子どもたち

そしてなにより素直で明るく育って行く彼らの子どもたちの成長を目にし、子どものいなかった私も子育てをしてみたい、と思うようになる。マレーシア人との交流から長期滞在に至る経緯は、「いいね!フェイスブック」(2011年、朝日新書)「フェイスブックではじまる人脈構築革命」(2012年、角川書店)にも書いている。
さて、いま、マレーシアへの教育移住がブームだと聞く。私が最初にマレーシアの教育事情について取材したのが2012年の秋。当時、大方の取材先の見方としては、当時はまだ移住者の主流はシニア層で、留学組は少しずつ増えている程度、というものであった。ところが、2013年の春、マルボロカレッジがジョホールバルに鳴り物入りでオープンしたのと前後して、マスコミへの露出が増え、教育目的でのマレーシア移住が脚光を浴びるようになった。

折しも、マレーシアではインターナショナルスクールの開校ラッシュで、受け皿が結構ある。マレーシアのインターナショナルスクールには、独特の存在理由がある。生徒の多くは英語での教育を求めるマレーシア人である。マレー語を重視するようになった国の教育に対して、英語での教育を求めるマレーシア人の親のニーズに応えて次々とオープンしているのだ。なので、インターナショナルスクールといっても、マレーシア人が生徒のほとんど、というところが結構ある。


日本人の移住先希望ナンバーワンと言われるマレーシアだが、こちらの生活は良いことばかりではない。先進国入りを目指しているとはいえ、日本のようにシステムが整っていない部分もある(もっとも、日本のようなシステムが整っている国は珍しいのではないかと思うけれども)。教育移住で胸を膨らませて来た親子でも、マレーシア人の英語力が思ったより高くない、治安が悪い、学校の制度が悪い、親や子どもが馴染めない、日本にはない病気がある、交通事情が良くない、思ったより物価が高い、など、テレビや雑誌では紹介しきれないことを知って不満を溜めている人も少なくない。マレーシア人に馴染めない、と言う人も少なくない。そのため、1~2年で帰ってしまう人もいる。
このコラムでは、いい面、悪い面を併せて紹介しながら、マレーシア移住の実際、理想と現実を取材を交えながら、ご紹介できたらと思っている。連載初回の今回は、クアラルンプールでインターナショナル校に通う子どもを対象にした塾「ACT教育研究所」を主宰する坂本博文所長にお話を伺った。

img_4da40e610008f07c7e8f6d318e814a8976697.jpg
ACT教育研究所の坂本博文所長

坂本さんはインターナショナル校事情に詳しく、インター校生向けの英語・数学の補習なども行い、年に2回、インターナショナルスクールの進学に関するセミナーも開催する。

坂本さんによれば、以前は現地駐在員の子女が中心だった塾生にも、長期滞在ビザや学生ビザで滞在する子どもが増えて来たという。どんな人がマレーシアに来ているのだろうか。
「イギリス式、アメリカ式、カナダ式などの欧米のカリキュラムを採用するインターナショナルスクールに子どもを入れるケースが多いです。小学校低学年から中学校1年生くらいがボリュームゾーンで、将来的に日本だけでなく海外の大学への入学を見据えて来ているようです」と坂本さんは分析する。
一方で公立学校など、マレーシア式カリキュラムを採用する学校に子女を入れる日本人は少ない。マレー語がネックになっている部分もある。
異文化を体験できるのが大きい

そもそもマレーシアで何が学べるのだろうか。「大きいのはまず異文化体験。そして英語ですね。マレーシアの良さは、英国や米国と比べて、文化の多様性があること。マレーシアだけでもマレー系、中華系、インド系と3つの民族の文化が学べる。これは、子どもたちにとって大きい経験となると思っています。訛りもあるため、英語だけなら欧米のほうが良いでしょうが、ここで子どもたちは、英語はあくまで道具なのだということを実感すると思います」。
一方でマレーシアが合わなくて帰ってしまう人も少なくない。なかには数カ月で帰国してしまった人もいるという。坂本さんは親自身がマレーシアを楽しめるかどうかが一つの鍵だという。

「カッチリしてるものでないと許容できないという方には、マレーシアは厳しいと思います。例えばホームページの情報が間違っているなどということは良くありますし、書いてあることと実態が違うというのも頻繁です。我々の経験とは違うものに親子で柔軟に対応していかないとなりません。二言目に『日本ではこうなのに』とつい言ってしまう人はどこかで衝突してしまうでしょう」

マレーシアに来る場合、どのようにプランニングするのがベストなのか。「こちらに来るのに良い時期は、小学校の高学年から中学1年生くらいまででしょうか。もちろん個人差はありますが、あまり早く来ると、母語としての日本語を身につけるのに支障をきたすことがありますし、遅すぎると今度は英語による勉強についていくのが大変です。一般的に、英国式のインターナショナルスクールの場合、日本の高校2年で統一試験を受けなくてはならないため、一般的には中学1年生の1学期終了時までに入学して、その試験までに英語力と学力の両方の習得にギリギリ間に合うかというライン。3年生になると、入学自体を受け入れてくれない学校も多いのです」。

米国式ならばほかのシステムと違い統一試験の受験が不要だが、元英領だったマレーシアは米国式の学校数が数少なく、入学競争も激しいのだという。「じつは、近年、学校選びの大きなファクターが学費になっています。最近になって学費が大きく値上がりしている学校もあるのです。米国式のインターナショナルスクールなどは学費だけでも数百万円単位と高いので、多くの家庭は断念せざるを得ない」と坂本さん。

「入ったら日本人ばかり」という不満も

学校情報はどうやって集めればいいのか。「多くの方が非常に少ない情報で学校を決めているのを見ています。最近、学校を見ず、メールの反応がよいからなどという理由で学校を決めてしまう方もおられますが、最低でも、一度は現地に足を運んで、自分の目で学校を見てみることです」。
また英語がまったくできない日本人が入れる学校は限られているため、どうしても特定の学校に集まってしまうという傾向がある。「入ったものの日本人ばかり」というのも良く聞かれる不満だ。

そういう人に、坂本さんは「できるだけ早く英語強化クラスを出ること」を勧めており、塾でもそういった目的のためのクラスを設けている。
「なかには、50カ国以上の子どもがいる学校があります。こうした学校では、いろいろな国の子たちがいるので、比較対象が増えることで見えてくるものがある。そういうものから、子どもが学べるものは大きいのではないかと思います」と締めくくってくれた。


http://toyokeizai.net/articles/-/40892

コメントする

アイテム

  • first-spa-20141220-768883-magazine.jpg
  • first-po-20141124-13947-magazine.jpg
  • Harbor_business_13169_1.jpg
  • thumb-ng-20141120-20141120003-world.jpg
  • img_0df3642ef8b1753b98d4302ab0eb81f05123.jpg
  • img_aa5ca59abad9fedb1131ef9261d007889378.jpg
  • img_ede49a2fbc6b525fa060b16acf43a8a710763.jpg
  • img_2db2e6ad9c90ec3ff8fe317dd7b087df11708.jpg
  • 141116-1Pasted Graphic.tif
  • 141115-2Pasted Graphic.tif
  • 141115-1Pasted Graphic.tif
  • img_528639ae1fcb7547a8a3f110be5bb4bf23004.jpg