大前研一:「ソフト対策」がなければ再稼動に賛成できない

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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140730-00000000-fukkou-bus_all#!bqt25D

nikkei BPnet 7月30日(水)8時28分配信

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再稼動に向けて審査を申請している各原発の現状


 九州電力の川内原発が再稼働に向けて動き出した。他の原発の再稼働を考えたとき、現行の安全審査体制や過剰な安全対策について見直していく必要がある。



【詳細画像または表】


http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20140729/409409/?yahoo_headlines

■再稼動申請した12原発19基の審査状況

 原子力規制委員会は7月16日、九州電力が再稼動に向けて申請していた川内(せんだい)原発1・2号機(鹿児島県)の安全審査について、事実上の合格を決定した。これを受け、九州電力は今秋の再稼働を目指すが、今後は地元自治体の同意が焦点になりそうだ。



 ここで再稼動に向けて審査を申請している各原発の現状について、「12原発19基の審査状況」をご覧いただきたい。



 九電は川内原発1・2号機のほかに玄海原発3・4号機(佐賀県)についても申請しており、その審査の進捗状況を見ると、地震想定はほぼ固まっている。ただ、川内原発の審査を優先してきたため、こちらの審査はもう少し時間がかかる。



 関西電力の高浜原発3・4号機(福井県)については、地震想定は決定済み。川内原発に次いで安全審査をクリアする可能性が高いと見られており、再稼働の二番手となりそうだ。同じく関電の大飯原発3・4号機(福井県)は、大幅な追加耐震工事が必要とされている。もっとも大飯原発3・4号機は去年、再稼働を実施済みである。



■現行の審査は委員1人の疑問でサスペンド



 四国電力の伊方原発3号機(愛媛県)は、敷地周辺の断層評価など地震想定で積み残しの課題がある。北海道電力の泊1~3号機も、一部の配管工事で追加工事が必要となっている。



 これら以外の柏崎刈羽原発6・7号機(東京電力)、島根原発2号機(中国電力)、女川原発2号機(東北電力)、浜岡原発4号機(中部電力)、東海第2原発(日本原子力発電)、東通原発1号機(東北電力)については、課題が多く、審査のスタートについたばかりというのが現状だ。



 現行の審査が問題なのは、1人の委員が「いかがなものか」と疑問を口にしただけで、すぐにサスペンド(審査停止)されてしまう点だろう。



 日本の原発のなかでも、川内原発には災害に強いという地理的優位性がある。しかしそれでも、審査過程では「桜島が大噴火して溶岩が流れてきたらどうするのか」といった類の"難癖"がつけられた。

 この議論はリスク管理の観点からいうと度を越している。桜島の大噴火を心配するのは、「超巨大な隕石が落下したらどうするんだ」と言うようなものである。



■規制委の根拠と基準をもっと客観的なものにすべき



 この議論を持ち出すと、地球上どこにあっても同じことになる。火力発電所の蒸気タービンも火山岩が降り注げばブレードが飛び散って甚大な被害が出るだろう。日本中にある液化天然ガス(LNG)タンクもミサイルや隕石が落下すれば安泰ではない。



 いま政府が成長戦略で進めようとしている燃料電池も水素を使う。全国に水素ステーションを設置するそうだが、同じく隕石などが降り注げば福島第一原発と同じ大きな水素爆発が起きる可能性がある。



 再稼働の審査で原発に関する基準を他のエネルギー源よりもきつくするのは構わないが、その根拠と基準に関して原子力規制委員会はもう少し客観的な議論を公開すべきだ。「懸念がある」とか「考え方が甘い」「いかがなものか」という発言で審査を先送りしたり、膨大な追加工事を意味もなくやらせれば、結局、電気料金としてユーザーに降りかかってくる。



 それが安全上必要だ、ということならユーザーも甘受するだろうが、その根拠が曖昧で、二酸化炭素(CO2)を増やすだけの火力にしわ寄せするのは問題だ。



 原子炉の再稼働をしない、と決めれば国民に「30%の省電力に正面から向き合い、取り組め」という政治判断をすべきだ。原子力の代替案は火力でも、(高価で安定供給に問題のある)再生可能エネルギーでもない。省電力である。



■残り"寿命"と安全対策コスト



 一方で、安全対策にも無駄が多い。必要以上にお金をかければ、原発の収益性に悪影響が出る。

 たとえば柏崎刈羽原発では追加の安全対策にすでに3000億円以上のお金がつぎ込まれている。これだけのコストを回収するには長い期間がかかる。運転経過年数が短く、残りの"寿命"が長い原発でなければ、経営は破綻してしまう。



 ここで「運転経過年数別の日本の原子力発電所数」をご覧いただきたい。



 運転経過年数別に見ると、10年未満が4基(泊原発3号機、東通原発1号機、志賀原発2号機、浜岡原発5号機)、10~19年が7基、20~29年が21基(川内1・2号 機など)、30~39年が12基、40年以上が4基(島根原発1号機、美浜原発1・2号機、敦賀原発1号機)となっている。



 このうち、40年以上経過した原発は、明らかに安全対策コストを回収することができない。建設時には30年を想定していた原子炉をその後40年に延命し、50年まではもたせたいとしていた業界の期待もむなしく、現実には残り寿命が10年を切った原子炉の再稼働は諦めざるを得ないだろう。



 30~39年の原発についても、安全対策コストを回収できるかどうか、微妙なところだ。かりに何千億円とお金がかかるようなら、再稼働はあきらめた方がいい。福島第一原発事故の経験を反映した「AP-1000」のような新型原子炉が世界各地で建設されている。コストは5000億円くらいだから、そちらの方が安全で経済的という判断もどこかで加味しなくてはならないだろう。



■本当に必要な安全対策だけに絞り込むべき



 こうして見ると、安全対策コストをぎりぎり回収できそうなのは、運転経過年数が20~29年までの原発となりそうだ。今回、安全審査をクリアした川内原発1・2号機も、その意味で再稼働可能な原発と言える。



 人々の過剰な不安をすべて反映させていたら、ハード面での安全対策コストはどうしても膨らんでいく。本当に必要な対策に絞って、極力コストは抑えるべきである。



 たとえば、巨大な防波堤などというものは心理的な効果しかない。福島第一で問題となったのは全電源喪失だった。何が起きても電源を確保し、原子炉を冷却し続けられるようにすれば安全対策としては十分だ。「万里の長城」とも呼ばれるような長大な防波堤は的外れな対策なのである。ある程度の防波堤は必要だが、再稼働の審査にあたっては「仮に水没しても冷却し続けられるかどうか」を基準にしなくてはならない。



 私の「一人事故調」でその辺の経緯に関しては全て公開しているが、福島第一の教訓は工学的にはきわめて明らかなのだ。原子力規制委員会が福島第一の分析もしないで、(したがって有効な対策も立案せずに)「地震や津波に対する想定が甘い」とか「活断層の可能性がある」などという感覚的な議論で時間とコストばかりかけている現状は改めるべきだ。



■重大事故時の対応組織とルール作りができていない



 また政府側として重大事故時の対応組織やルール作りをやらずに再稼働に前のめりになっている現状も容認できない。アクシデントモード(重大事故)になった時に誰が指揮を執るのか、どこまで地元自治体と情報を共有し、避難などの意思決定をしていくのか、などの重要な作業が未だになされていない。



 そうした新しいルールに基づいて地元とはドリル(繰り返し演習)をしなくてはならないが、自民党の担当者の中には「そうした訓練をすれば、地元民は余計心配するので......」と言って、訓練どころか組織とルール作りさえ手を付けていない。



 拙著『原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書』(小学館)でも書いたが、そのソフトな部分がなければ金のかかるハードな工事をいくら進めても、私は再稼働に賛成できない。

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最終更新:7月30日(水)8時28分

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