所有ではなく自然の恵みを分け合う 企業と自治体の取組み

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2014.08.09 16:00

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 この夏休みに海外旅行に出かける人の推計は263万人(JTB調べ)。普段は水道水を飲む人でも、海外では水を買う――というよりも「買わなければ、飲めない」地域が多い。むしろ「水道水がそのまま飲める国」は、世界的に見て圧倒的に少なく、日本を含めてたった十数か国といわれている。水の存在を通して見ると、日本はとても豊かな自然に恵まれた、質の高い水源を持つ希少な国であることがわかる。

 そんな日本の水源のひとつ、南アルプス――その「力」や「魅力」について、『サントリー天然水』の担当者・川村崇さんに話を聞いた。

「まず南アルプスというのは、長野県・山梨県・静岡県にまたがって連なる山脈で、東は富士川、西は天竜川に挟まれたエリアになります。3000m級の高峰がいくつもある国内有数の山岳地帯であり、1964年には国立公園にも指定された自然豊かな場所です。

 海外の水源――例えばフランスと南アルプスを比較してみると、まず地質が異なります。ヨーロッパは海底が陸地となった水成岩、海底に沈殿した砂や泥・微生物の屍骸などが堆積し、圧力で岩石となったミネラル分豊かな硬水ができる土壌です。一方、日本は火山のマグマが地中や地上で冷え固まった火成岩で、飲みやすい軟水というのが特徴。どちらが優れているということではなく、それぞれの土地に、それぞれの特徴を持つ水があるというのは、水が自然の恵みであると、改めて感じるポイントだと思います」

 サントリーというと「水と生きる」をコーポレートメッセージに、「100年先の水をつくる」といった自然保護や水源の保全活動に力を入れている企業として知られている。

「私どもでは、ワイン・ウィスキー・ビールといった酒類をはじめ、天然水や清涼飲料水など、水を扱うビジネスの中で天然水原料にこだわった商品を展開しています。水資源は無限ではありませんから、これは事業継続に関わる大きなテーマです。また、水や水源を育む自然は、我々だけのものではありません。少なくとも私たちが使う分を貯えられるようにするため、森の涵養(かんよう)活動を2003年からスタートしました。

 その活動当初の目標である、"自分たちが使う分の水を賄う環境を作る"というのは、2011年に達成できるようになり、現在は"自分たちが使う分の、2倍の水を育む環境を作る"という新たな目標に向けて活動しています」(川村さん)

 同社では水を作る活動と並行して、原料以外に製造工程で使われる、洗浄水や冷却水などを効率的かつ安全にリユースする、節水効率の高い製造ラインを実現している。しかし、自社で使用する分の2倍の水を生み出す環境を作るとすれば、その用地確保だけでも容易ではない。

「あまり知られていない部分かもしれませんが、私たちは水源や周辺の土地を保有しているわけではありません。全国で現在、17の自治体から水源涵養のために木や森・山などの管理を代行する形で、土地をお借りしているんです。地域のご要望によって期間や契約の形はさまざまですが、丹沢や赤城など最長100年といった長期の契約もあります。

 企業によっては土地を所有し、伐採した木を販売するなど、保全活動とビジネスを両立されている会社もありますが、当社は森を守る活動そのもので収益を上げることはしません。これらはあくまで相互理解のもと、自然の恵みを地域のみなさんに共有いただく――といった姿勢で活動しています」(川村さん)


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【「親子ツアーでは、川遊びや森でカブト虫を捕まえるなど、お子さんと一緒に親御さんも楽しまれる方が多いですよ」と語る川村さん】


 そうした地域との共生の中で、工場を訪れる人に自然保護の大切さを伝える活動も行なっている。山梨県北杜市白州町にある「白州蒸溜所」「サントリー天然水白州工場」では、健全な森の重要性についての解説を盛り込んだ工場見学のほか、工場周辺の森や名水百選にも選定された尾白川で、実際に自然の中で楽しみながら学ぶ親子ツアー、また「水育」をテーマにした出張授業なども人気だ。

「みなさん自然に囲まれた工場の立地に、まず驚かれます。自然の力と最新鋭工場、2つのすごさを体験してもらう中で、私たちが安心・安全な商品を提供していることを感じていただくだけでなく、自然の大切さも実感してもらえるのは嬉しいですね。年間約9万人の方に楽しんでいただいていますが、より多くの方に見てもらいたいです」と川村さんは語る。

 こうした企業が行なう水源保全や自然保護に関する活動もあるが、自治体も積極的に動いている。今年6月には、山梨県(韮崎市・南アルプス市・北杜市・早川町)、長野県(飯田市・伊那市・富士見町・大鹿村)、静岡県(静岡市・川根本町)の10市町村の申請により、「ユネスコエコパーク」(正式名称:生物圏保護区)に認定された。参加自治体のひとつ、南アルプス市 ユネスコエコパーク推進室の広瀬和弘さんはこう語る。

「スタートは2009年頃、平成の大合併などを契機に、南アルプス国立公園の関連自治体10市町村の首長が中心となって、『南アルプスをテーマにした町づくり』を考えるようになりました。その中で目指したのは、世界遺産への登録です。今回認定された生物圏保護区も、同じくユネスコ認定の指定保護区ですが、申請プロセスに違いがあるため、まずはユネスコエコパークの認定を得ました。今後も引き続き、自然環境に配慮しながら、世界遺産への登録も目指しています」

 ユネスコエコパークの登録要件には、「重要な生物群集を持つ地域で、保護された中核地域を含む」「異なった管理がなされている複数の地域を含む」といった内容が含まれ、自然と人間社会の共生・多様性の共存が評価のポイントと感じられる。南アルプスユネスコエコパーク公式サイトを見ると、大きな枠組みとしての啓発活動だけでなく、各地域や自治体がそれぞれのエリアで普及活動を展開しているのも特徴的だ。

「ユネスコエコパークとしての自覚や誇りを持ち、信頼される地域として、自然保護に努めたり、観光客の方をおもてなししたり、横断的に取り組むこともありますが、各エリアの個性も大切に考えています。そうした多様性に富んだ自然を通じて、この南アルプスという地域が安心・安全なエリアという信頼が得られれば、観光だけじゃなく農作物のブランド力向上など、地域全体の発展や5年後・10年後の町づくりへと、繋がって行くのではないでしょうか」(広瀬さん)

 豊かで健全な自然環境と、農業や工場などの産業・生活エリアといった人為的なものとが、共に育み、地域としてのブランド価値を生み出す。そうして生まれた利益がまた、地域や自然保全へと還元・循環される――南アルプスの自然は豊かな森や山・水源などを通じて、"恵みを分け合う"という基本的で、大切なことを教えてくれる土地のひとつといえそうだ。

http://www.news-postseven.com/archives/20140809_270859.html

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